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札幌高等裁判所函館支部 昭和30年(ナ)1号 判決

原告 池田源之助 外一名

被告 函館市選挙管理委員会

主文

本件訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告等は、「昭和三〇年四月三〇日行われた函館市長選挙の当選の効力に関する原告両名の異議申立に対し、同年五月二八日被告のなした申立却下決定を取消す。右選挙における吉谷一次の当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は主文と同趣旨の裁判を求めた。

原告等が請求原因として陳述した要旨は、原告等は、昭和三〇年四月三〇日行われた函館市長選挙の選挙人であるが、同年五月二日候補者吉谷一次が右選挙の当選人と決定した。しかしながら、同候補は(イ)退職挨拶状に名をかり合計一万七千枚以上のはがきを選挙人に郵送しいわゆる事前運動をなしたもので、この事実は公職選挙法第一四二条第一項第七号に違反するし、(ロ)その結果同候補の選挙運動費は同法第一九六条による法定費用金五二五、〇〇〇円をはるかに超過した。同人には右(イ)、(ロ)の違反行為があるからその当選は無効である。よつて原告等は当選決定即日被告委員会に対し右の理由により別紙申立書を提出し当選の効力に関する異議の申立をしたのであるが、被告は原告等が「当選無効申立書」と記載すべきを誤つて「選挙無効申立書」と記載した点を捕え、申立書には右事実は同法第二四三条に該当すると記載したのに強いて同法第二四二条に該当すると主張したようにして故意に同法第二〇五条の選挙の効力に関する異議申立の如く判断した上、これを前提として「被告委員会としては申立のような事実を審理決定すべき権限がない」との理由の下に原告等の異議申立を選挙の効力に関する異議申立として同年五月二八日却下し、原告等は同日却下決定書の交付を受けた。それで、被告の右決定を取消し吉谷一次の当選無効の確認を求める為同法第二〇七条により本訴に及んだというにある。なお、被告の抗弁に対し、原告等が右却下決定に対し訴願を提起しなかつたことは認めるが、本訴は公職選挙法第二〇七条第一項により訴願を経なくても適法であると述べた。

被告訴訟代理人は、右選挙に際し、原告等から別紙どおりの異議申立があり、これに対し原告等主張どおりの却下決定をしたことは争わないが市の選挙ならびに当選の効力に関する訴訟を提起するには公職選挙法第二〇三条第二項、同法第二〇七条第二項の規定により異議申立の決定及び訴願の裁決後でなければならないのに原告等は被告のなした異議申立却下決定に対し訴願を提起せず直ちに本訴を提起したものであるから本訴は不適法として却下せらるべきものであると述べた。

理由

本訴は市長の当選無効の訴で原告等が函館市長選挙における当選の効力に関し被告函館市選挙管理委員会に異議の申立をなしたところ、異議申立却下の決定があり、該決定を不服としその取消及び当選無効の確認を求める為訴願を経ないで直ちに出訴したものであることは原告等の主張自体に徴し明らかであり、原告等は市選挙管理委員会の当選の効力に関する異議決定に不服ある場合は公職選挙法第二〇七条第一項により訴願を経ないで出訴できると主張するけれども、市町村長の選挙又は当選の効力に関する訴訟を提起するためにはその前提として当該市町村選挙管理委員会の異議決定及び都道府県選挙管理委員会の訴願裁決を経なければならないことは公職選挙法第二〇二条第一項、第二項、第二〇三条第二項、同法第二〇六条第一項、第二項、第二〇七条第二項の規定に照し疑いのないところであり、右条項及び同法第二〇七条第一項、第二〇三条第一項を少し注意して読めば第二〇七条第一項、第二〇三条第一項の出訴の前提である異議決定庁は都道府県選挙管理委員会で市町村選挙管理委員会ではないこと、ならびに市町村の議会議員、長、教育委員会の委員に関する選挙争訟は前記の通り当該市町村選挙管理委員会の異議決定及び都道府県選挙管理委員会の訴願裁決を経た後でなければ提起できないことは容易に理解し得るのであるから原告等がその主張するように誤解していたということであつても、それは選挙争訟に準用があると解すべき行政事件訴訟特例法第二条但し書の「訴願裁決を経ないで出訴するにつき正当な理由があるとき」というのにも当らない。

それ故、本訴は訴願裁決を経ない不適法な訴で却下すべきであり、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 西田賢次郎 安久津武人 山崎益男)

(別紙省略)

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